貴重な資料を未来へ
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酸性紙でボロボロになった書籍本文10欧米で、紙の劣化が本格的に問題になったのは、ウィリアム・J・バローの訴えからである。バローの研究をもとに、資料保存のための中性紙の規格が1984年に米国で制定された。(ANSI Z39.48-1984)以後、大量脱酸や修復、保存箱の導入、保存環境の整備など資料保存のさまざまな対策がとられた。日本では、1982年に金谷博雄が『本を残す』-用紙の酸性紙問題資料集-を刊行したのがきっかけである。1983年、国立国会図書館に「資料保存対策班」が設置され、蔵書の劣化調査が始まった。調査を契機に、日本での書籍の本文用紙の中性紙化は急速にすすみ、2008年の調査では、新刊図書の95%以上が中性紙化されていることがわかった。参考文献:・ISO 9706 Information and Documentation - Paper for Documents - Requirements for Permanence・ANSI Z39.48-1984 Permanence of Paper for Publications and Documents in Libraries・鈴木英治 『紙の劣化と資料保存 シリーズ本を残す4』 (1993)■紙に含まれる酸が、時間の経過で紙を劣化させる現象。19世紀半ばに近代製紙技術が確立し、洋紙の大量生産が始まった。洋紙の製造に使われた硫酸アルミニウムが原因物質で、半世紀もたたないうちに紙の劣化がはじまり、社会問題になった。紙は、サイジングというインキのにじみ留めが必要だが、にじみ留め剤の「ロジン(松ヤニ)」の定着に硫酸アルミニウムが使われてきたのである。■酸性紙問題と欧米・日本の対応酸性紙の置かれている環境で、相対湿度の変化が繰り返されると、紙の水分は徐々に失われ、最終的にはボロボロになってしまう。ほかにも、大気汚染ガスによる紙の酸性化がある。強い酸性物質と接することによって、酸が移行し劣化が進行することもある。これをマイグレーションという。酸性紙の劣化            硫酸アルミニウムは、長い間に、紙に含まれる水分と反応して、硫酸を生成し、紙を内部から崩壊させる。酸加水分解という。硫酸には強い脱水作用があり、紙からの水分の放出により、時間の経過とともに繊維が堅く脆くなっていく。ウィリアム・J・バロー1957年、米国の修復家ウィリアム・J・バローは、1900年代の本の酸性度と劣化状態を綿密に調査し、酸性紙問題を訴えた。バローは、良質の化学パルプを原料に中性のサイズ剤を使い、填料に炭酸カルシウムを加えた中性紙を世界で初めて開発した。この紙を「パーマライフ」と名付けた。蔵書の劣化調査          日本では、1980年代から国立国会図書館をはじめ早稲田大学や慶応大学などが蔵書の劣化調査を実施した。蔵書の数%が酸性劣化していることがわかり、製紙、印刷、出版界で大きな問題になった。図書館をはじめ美術館、博物館、公文書館などで資料保存の対策がはじまった。酸性紙問題とは?酸性紙問題と欧米、日本の対応

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