レポート: 2008年8月アーカイブ

開館して8カ月の長野市公文書館

 

0885日に全史料協関東部会が定例研究会を長野市公文書館で開催しました。公文書館の概要などをレポートします。

 

koubunshokanzenkei.JPG■公文書館概要

長野市公文書館(写真1)は、善光寺に隣接する城山公園内に、もとNHK長野放送局の建物を利用して071120日に設置されました。周辺には、少年科学センターや動物園、長野県信濃美術館などがあります。全国の地方自治体で51番目、県内では県立歴史館、松本市文書館に次いで3番目の公文書館になります。1991年に市誌編さん事業を開始し、03年に「公文書館の整備」を提言、07年に開館しました。

 

 

 組織上では、公文書館は総務部庶務課の情報管理室に属しています。施設総面積は約407㎡で、職員は正規2名と嘱託9名の計11名。業務分担は、専門主事(嘱託4人)が資料選別・収集・整理・利用案内・調査研究・普及などで、補助員(嘱託4人)が、資料整理・利用受け付けなどとなっています。所蔵資料は、古文6,783点、公文書12,288点を含む65,564点です。定期刊行物『市誌研究ながの』を年に1回発行しています。

 

                           ■収集・整理

hotikisu.JPG公文書は、「市役所文書」と(長野市と合併した)旧市町村役場の「旧役場文書」に分かれます。市役所文書は、第二次大戦前の資料が1965年の庁舎移転に伴い処分されており、863点と少ないですが、旧役場文書は約1万点あります。これらの資料は、燻蒸後にホコリ払いとホチキス取りをします(写真2)。(写真3は、取り外した大量のホチキスコレクション) 解体した文書は、コヨリで留めて、劣化の進みやすい青焼きや感熱紙などはコピーし綴じなおします。旧役場文書は、一点ずつ中性紙ボードで箱を作り、表題と資料番号をプリンタで印字しています(写真4)。

 

 

 

hotikisukorekushon.JPG hozonbako.JPG

 

古文書はマイクロフィルムに撮影し、紙に焼いて利用してもらっています。書庫は温湿度管理が十分ではないため、マイクロフィルム(PETベース)は館内でも比較的安定したスペースを見つけて収蔵しています(写真5 中性紙保存箱に入ったマイクロフィルム)。

maikuro.JPG 

 

■今後の課題

書庫スペースが不足していることや、館が組織として機能する体制、本庁の公文書を収集する仕組み作りなどが課題です。対外的には、市職員や市民への公文書館の周知や一日2名程度の利用者をさらに増やすことなども今後のテーマです。資料の整理では、わかりやすい資料目録の作成や原本の簡便な保存修復、紙資料の複製・デジタル化なども検討課題になっています。(神谷)

 

 

長野市公文書館:〒380-0801 長野県長野市箱清水1-3-8 長野市城山分室内

TEL 026-232-8050   FAX 026-232-8051

URL

http://www.city.nagano.nagano.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=11817

 

| | コメント(0) | トラックバック(0)

学術専門図書館のマイクロ保存対策

 

microhozon080801.JPG 

東京大学東洋文化研究所図書室(以下東文研)では、16,000本を超えるマイクロフィルムを所蔵しています。図書チーム係長の田崎淳子さんは、074月の資料保存セミナー「ビネガー・シンドローム-お宅は大丈夫?」への参加をきっかっけに膨大なフィルムコレクションの状態調査を実施しました。それまで、マイクロフィルムは十分な保存対策をしていませんでした。調査結果によると、保管環境が悪かったことやTACベースのフィルムに酸性劣化が始まっていることなどがわかりました。

 

以下は、0881日に開催された、日本図書館協会 資料保存委員会 保存管理チーム主催の第9回資料保存セミナー調査から計画へ⑥「マイクロフィルムの保存対策-まずはサンプル調査から-」で発表された田崎さんのお話**をもとに、筆者(神谷)が再構成したものです。

 

■TACベースフィルムの劣化

90年代初期まで、マイクロフィルムの支持体はTAC(トリアセテート)でした。TACは、高湿度環境に置かれると、長い時間に水分と反応(加水分解)して酢酸を発生させます。温度が高かったり、金属缶などの密閉容器に入れたままにしておくと、酢酸が触媒となりさらに劣化がすすんでしまいます。症状は、すっぱい臭い(酢酸臭)がしたり、フィルムに波打ちやべとつき、白い粉の析出などです。これらは、「ビネガー・シンドローム」と呼ばれています。

91年の高分子劣化国際シンポジウムでTACベースの加水分解が報告され、2年後の新聞報道により社会的関心が高まり、ISOの保管条件の見直しや、支持体のPET(ポリエステル)ベースへの移行が始まりました。

 

■TACベースの保存対策

永久保存の場合、TACベースの温湿度保管条件は、21度C以下、1540%RHといわれています。劣化の進行を遅くするために、ガス吸着材や乾燥剤を使うことも推奨されています。

TACベースの劣化は、いったん症状が出ると止めることができません。すでに劣化が始まっているフィルムは、中性紙の帯や箱に入れ替える作業が必要になります。密閉容器にとじ込めないことも大切です。長期保存したいTACベースフィルムは、PETベースに画像を移し替えることが先決ですが、まとまった複製経費が必要になり、迅速な対応が難しいという面があります。劣化したフィルムは別置しなければなりません。

現在のマイクロフィルムは、すべてPETに切り替わっていますが、写真や映画フィルムなどには未だにTACが使われています。

 

■東文研のマイクロフィルムの一次調査

マイクロフィルム状態調査のプロセスは、二段階に分かれます。一次調査は、ランダム・サンプリング法***による、A-Dストリップ****を用いたサンプル調査です。酢酸臭の認識はありましたが、どのくらいの絶対量なのかを知るためにも調査が必要でした。結果、酸性劣化の臨界点を超えているものがTACフィルムで20%を超えていました。また、本来、ネガとポジは保管条件を変えなければならないところを同じ場所に混在させていることも問題でした。(ネガは、長期保存用として湿度の低い環境に保管し、ポジは利用のために閲覧室の湿度に近い環境に置かねばなりません)

ほかにも、常温・密閉環境によるTACフィルムの劣化が判明しました。ネガ229本とポジ403本の合計632本の調査には、のべ30時間かかりました。

 

一次調査の結果をもとに図書委員会に報告・要望を提出し、予算要求。高温多湿なインドネシア国立図書館での調査例と比較しても結果が悪いと説明し、理解を求めました。0711月に学内開催した「第3回アジア古籍保全講演会」ではサンプル調査の結果も発表。

 

■二次調査

全点を調べる二次調査は、専門業者を頼んで一日4名で1.5か月掛かりました。TACとPETの割合や目視によるフィルムのリード部分の調査などです。TACベースは、イオン化していない酸を表す「遊離酸度」も測り、フィルム巻き芯の材質や形状も調べました。この結果、劣化フィルムは、一次調査とほぼ変わらない割合であることも判明しました。

 

■成果と課題

いちばんの成果は、劣化したTACベースのネガフィルムをPETフィルムに複製し、当面の問題が回避できたことです。

課題の一つは、保存環境の整備です。保管スペースを確保できましたが、コストのかかる空調を導入できず、エアコンによる管理ができないかを検討しています。ほかにも、二次調査の詳しい分析や手つかずのマイクロフィッシュの状態調査などいくつかの課題が残っています。(神谷)

 

 

*「ビネガー・シンドローム-お宅は大丈夫?」:第4回の資料保存セミナーの記録。

http://www.jla.or.jp/hozon/hozonkanri/seminar20070411_resume1kaitei.pdf

 

**「マイクロフィルムの保存対策-まずはサンプル調査から-」のレジュメ:

http://www.jla.or.jp/hozon/hozonkanri/seminar20080801resume.pdf

当日のレジュメ以外では0711月発表の「東洋文化研究所マイクロフィルム状態調査」の資料もあり。

 

***ランダム・サンプリング法 : http://www.hozon.co.jp/random_sampling.htm

(有)資料保存器材の木部 徹氏が紹介した。図書館資料の劣化調査に的をしぼった、統計学に基づいた調査法でCarl Drott1969年に発表した。

 

****ADストリップ:フィルムの酸性劣化を色の変化で簡易測定する試験紙。

米国、IPI(Image Permanence Institute:画像保存研究所)が開発。国内では、国際マイクロ写真工業社などが販売。 国際マイクロ写真工業社: http://www.kms.gol.com/

 

| | コメント(0) | トラックバック(0)
株式会社TTトレーディング
デジタルもんじょ箱トップへ

最近のトラックバック