
文化財の「保存環境」という言葉は、1960年代には大気汚染などを中心とするものでしたが、近年では、温湿度や光、空気汚染、生物被害や地震、火災、人的被害など広い意味で使われるようになってきています。資料はさまざまな要因で劣化します。以前は劣化資料を一点ずつ修理・修復することに重点を置いていましたが、昨今では保存環境を整えることで、劣化を食い止めたり、劣化速度を遅くするようにするという考え方が普及しています。
このような前提で著されたものが『文化財保存環境学』(三浦定俊ほか著、朝倉書店、2004年)です。
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-10192-8/
1995年、東京芸術大学大学院美術研究科に東京国立文化財研究所(当時)との連携による「文化財保存学専攻システム保存学」を設置、「保存環境学講座」が開かれ、この講座の内容を元に出版されたものです。
2010年6月には『博物館資料保存論-文化財と空気汚染』(佐野千絵ほか著、みみずく舎)が出版されました。美術館や博物館で文化財を保存・展示するための清浄な空気環境を獲得するためのさまざまなノウハウを紹介しています。
http://www.tokushu-papertrade.jp/digimon/mon-blog/2010/06/post-87.html
一方、『文化財の保存環境』は2012年4月から施行される博物館法施行規則に新たに加えられた科目「博物館資料保存論」の講義の副教材となるようまとめられたものです。学芸員資格を目指す学生や文化財保存にかかわる方々へ向けて書かれています。
文化財の基礎知識に加え、温湿度や光、室内空気汚染物質、生物被害、屋外環境、災害や事故などの入門的知識や対策について保存科学に基づいた解説がされています。それぞれに劣化事例や具体的な対策例が述べられています。
また、3.11の東日本大震災に関連して、地震対策や津波で被災した水濡れ紙資料の応急処置なども報告されています。
(文責 神谷)
『文化財の保存環境』
編者: 東京文化財研究所
初版: 2011年11月20日
発行所: 中央公論美術出版
http://www.chukobi.co.jp/products/detail.php?product_id=594
判型: A5判カバー装 184p 挿図131点(フルカラー)
定価: 1,900円(税別)
ISBN978-4-8055-0648-6 C1071
内 容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.総 論
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.文化財の基礎知識
1.文化財資料/2.文化財の材質
Ⅲ.文化財保存科学
1.文化財保存の研究/2.文化財劣化の要因と保存
対策/3.ファシリティ・レポート
Ⅳ.文化財の保存に関する倫理
コラム 文化財資料の科学調査
2.温湿度環境
Ⅰ.温度と湿度の基礎知識
1.温度/2.湿度/3.温度と相対湿度の基準
Ⅱ.温度と湿度の測定
1.温度と湿度の測定の重要性/2.温湿度測定機器
と実用例/3.測定機器の較正
Ⅲ.温湿度による文化財の劣化と対策
1.温湿度環境が適切でない場合の文化財へ与える影
響の例/2.空気調和設備/3.除湿器と加湿器/4.
展示ケースと調湿剤/5.保存箱/6.換気
コラム 伝統的な保存方法
3.光と照明
Ⅰ.光の基礎知識
1.光とは何か/2.白色光と単色光/3.色温度/4.
演色性/ 5.光の強度と明るさ/ 6.明るさの指標
Ⅱ.光の測定
1.光と物質の相互作用/2.波長と劣化リスクの関
係/3.文化財の材質と劣化の起こりやすさ/4.赤
外線の影響
Ⅲ.光による文化財の劣化と対策
1.照度基準/2.照度の計測/3.外光について/4.
鑑賞性の確保/ 5.収蔵庫における照度
Ⅳ.展示照明用光源
1.白熱電球(ハロゲンランプ)/2.蛍光灯/3.白
色発光ダイオード/4.照明光源の今後
コラム ガラスと光
4.室内空気汚染
Ⅰ.室内空気汚染の基礎知識
1.汚染物質の種類と発生源、その影響/2.室内空
気汚染の進み方
Ⅱ.室内空気汚染の測定
1.室内空気汚染の推奨値/2.室内空気汚染監視と
評価
Ⅲ.室内空気汚染による文化財の劣化と対策
1.粒子状汚染物質対策/2.ガス状汚染物質対策/
3.新築の博物館などでの問題/4.日常的な展示に
おける問題/5.季節的な問題/6.外気からの汚染
ガスの侵入/7.換気できない収蔵庫の問題/8.管
理薬剤の影響
コラム 現代材料の保存
5.生物被害
Ⅰ.文化財加害生物の基礎知識
1.屋内環境での注意点/2.博物館などにおける加
害生物/3.博物館などでの生物被害対策の考え方
Ⅱ.害虫・害獣による文化財の劣化と対策
1.IPM(Integrated Pest Management 総合的有害生物管
理)/2.様々な劣化要因のひとつとしての生物被害
/3.生物被害管理プログラムにおける5 段階のコン
トロール/4.博物館などにおける殺虫処理
Ⅲ.カビによる文化財の劣化と対策
1.博物館などで見られるカビの特徴/2.カビの生育:
水分と栄養分の影響/3.カビによる劣化/4.カビ
の予防/5.カビへの対処法
コラム 展覧会における加害生物の侵入
6.屋外環境
Ⅰ.文化財のおかれる環境
Ⅱ.温度・湿度・水分による影響
1.塩類風化/2.凍結劣化/3.温湿度変化/4.石
やレンガ内の水分量
Ⅲ.太陽光による影響
1.屋外での光の影響/2.彩色の劣化/3.太陽光からの保護
Ⅳ.大気汚染による影響
1.大気汚染と文化財/2.大気汚染物質/3.大気汚
染物質の発生源と特徴/4.大気汚染物質による文化
財の劣化と対策/5.大気汚染への対策
Ⅴ.生物被害による影響
1.屋外環境の生物被害の特徴/2.屋外で文化財を
加害する生物種/3.屋外の生物被害対策の基本
Ⅵ.屋外環境での対策
コラム 現代美術作品の保存
7.災害・事故
Ⅰ.火災対策
1.防火/2.燃焼/3.消火/4.被害事例
Ⅱ.地震対策
1.建物の耐震診断/2.直接的な被害/3.建物内の
二次的な被害
Ⅲ.水害対策
1.水損の起きる機会/2.防災マップの利用/3.川
の氾濫による被害事例/4.津波による被害事例/5.
水濡れによる影響
Ⅳ.防犯対策
1.防犯環境の設計
Ⅴ.輸送と梱包
1.資料の輸送過程と起こりうるリスク/2.衝撃/
3.振動/4.温湿度環境/5.事例―高松塚古墳壁
画の仮設修理施設への移動―
コラム 被災時の文化財レスキュー
付 録 文化財保護の歴史
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