映画『羅生門』のデジタル化

オリジナルネガのない映画の復元は?

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1950年に制作され、翌年にヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞した黒澤明監督、宮川一夫撮影の『羅生門』は、映画史上に残るモノクロ映画の代表作です。角川文化振興財団とアメリカ・映画芸術アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and SciencesAMPAS)は、このほど作品のデジタル復元を行いました。

 

オリジナルネガは、ニトロセルロース製で可燃性が高いため廃棄されており、デジタル化は、62年につくられたプリントをもとにしました。素材は、焼付時に生じたコマのガタつきやブレが顕著であるとともに、長年の映写によるキズやヨゴレも目立っていました。原版の縮みによるワープ(歪み)やスプライス(接合)後のコマに規則的に生じるスプライス・バンプ(フォーカスの乱れ)なども修復が必要でした。作品は、登場人物の主観がミステリーを呼ぶもので、撮影には、あえて硬調のネガフィルムを採用したという。コントラストを強くするために現像所でテストを繰り返したという話も残っています。

 

復元の精度を高めるためには、オリジナルネガの情報が必要ですが、現存していないため、宮川カメラマンが所有していたネガの「カット尻」を唯一の拠り所にしました。これにより、画面のコントラストが確認できました。デジタル復元は、ピクセル単位で加工できるので、逆に人為的なモノになりやすい危険性があります。できる限り真正な(Authentic)再現をめざすためには、カット尻は不可欠でした。プロジェクトには、多い時で40人のスタッフが関わったということです。

 

「『羅生門』のような著名な作品には、コストを掛けることができますが、そうでない映画の復元は難しいですね。」(東京国立近代美術館フィルムセンター 主任研究員 映画室長 とちぎあきら氏)

 

作品は、「最新デジタル映像技術が開く新世界」というイベント(1021日)と第21回東京国際映画祭(1025日)で上映されました。

 

参考資料 : 平成20年度 画像保存セミナー「画像保存の過去・現在・未来」

「デジタルを通してフィルムが見える―フィルム・アーカイビングの現場から」(とちぎあきら氏講演、2008年10月31日)

 

角川文化振興財団 : http://www.kadokawa-zaidan.or.jp/

 

AMPAS(黒澤明のページ) : http://www.oscars.org/events/kurosawa/presskit.html

 

東京国立近代美術館フィルムセンター : http://www.momat.go.jp/fc.html

日本で唯一、ナショナル・フィルム・アーカイブセンターの役割を担っており、映画の収集と、保管・安全保護、保存、復元を行っている。相模原分館では、35mmフィルムで約20万缶の映画フィルムを保存。収蔵庫の空調は24時間稼働、モノクロフィルムは、室温10℃±2℃、湿度40%±5%に、カラーフィルムと原版フィルムは、室温5℃±2℃、湿度40%±5%に設定されている。長年の劣化のため酢酸ガスを発している(ビネガー・シンドローム)フィルムについては、他のフィルムに悪影響を及ぼさないように特別の保存室を設けている。映画フィルムの保管に対応している機関は、ほかに京都府文化博物館と福岡市総合図書館など日本では数少ない。

 

センターにおける邦画の収集率は、1910年代が0.1%、1920年代で3.5%、1930年代で9.9%、1940年代で28.8%という。特に、戦前の作品は、関東大震災や戦時下の空襲などで多くを失っている。戦後の作品も、可燃性原版は皆無という。(社)映像文化製作者連盟の呼びかけで、2001年度からフィルムセンターが受入れを開始し救済が始まった。

 

近年では、商業映画だけでなく、記録映画の保存も課題となっている。民間の現像所などに眠っている「オーファン(孤児)フィルム」は主要5社だけで、5万本にのぼる。フィルムは、すでに劣化や廃棄が始まっており、保存環境の整っている機関の受け入れが急務といわれている。081027日に「記録映画保存センター」が設立され、収集と保存が始まった。ビネガー・シンドロームのフィルムも多く、近代美術館フィルムセンターが岩波映画3898本の受入を開始した。

 (文責 神谷)

 

    Asahi.comの記事 : http://www.asahi.com/culture/update/1025/TKY200810250086.html

記録映画保存センター : http://kirokueiga-hozon.jp/index.html

 

 

 

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