学芸員が建設にかかわった博物館

山梨県立博物館のバックヤードツアー

 

200510月に開館した山梨県立博物館は、2001年に基本設計、翌年から施工が始まりました。保存科学担当学芸員の沓名貴彦さんは、施工段階の2003年に博物館建設室に採用されました。日本の美術館・博物館では保存科学の学芸員を採用している館は少なく、中でも建設段階から採用している山梨県立博物館は、稀有な例です。

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筆者(神谷)は、7/129/1まで開催された県立博物館の夏期企画展「文化財を まもる しらべる つたえる」の関連イベント「バックヤードツアー」に沓名さんの案内で参加しました。ツアーは定員20名X4回開催され、毎回満員になりました。現場の意見が反映された博物館のバックヤードをレポートします。

 

 

 

 

 

■空気質と温湿度を徹底管理した収蔵庫

 

収蔵庫の周囲は廊下で囲まれており、外気の影響を受けにくい構造になっています。内装材には、極力収蔵庫内の環境を悪化させない材料を選定しています。例えば、非ホルムアルデヒド合板や、アンモニアガスを吸着・低減させるという「セラミック粉混入木繊セメント板」を使っています。他にも、床材には国産のカバザクラを、壁材にはヤニの発生が少ないスプルース及びケイ酸カルシウム板(調湿材)を主体とする複合パネルを採用しました。ボードやクロスを貼る接着剤や塗料にも、非ポリ酢酸ビニル系で有機溶剤を使わないアクリルエマルジョン系の合成樹脂やデンプン誘導体のみを用いました。

また、屋根については、直接日光による熱が建物に伝わらないためや、万が一雨漏りがしても建物内に水が入らないようにするため、屋根を二重構造にした置屋根と呼ばれる造りにしました。

 

収蔵庫には可能な限り資料にとって安全な材料を使っていますが、たとえばアンモニアガスを発生させるコンクリートなどは避けることができません。このときは、コンクリート打設を最優先で行い、乾燥期間を長く取り、ガスの低減を図りました。この乾燥期間のことは一般的に「枯らし」と呼ばれ、「コンクリート打設後から文化財の公開までの期間は、二夏の経過またはこれに相当する環境の実現が望ましい」(文化庁の指針)とされております。

 

さまざまな有害ガスには、活性炭を使った化学吸着フィルターを組み合わせ、ホコリを取り除くために中性能フィルターも付いています。おかげで、竣工後も東京文化財研究所が採用している各汚染物質の濃度基準**を下回ることができました。

 

庫内の温湿度は資料の材質に応じて24時間一定になるよう設定されています。温度は春秋の22℃を中心に夏は若干高め、冬は若干低めにしていますが、湿度は一年を通して5560%RHで管理しています。外気との温度差を少なくしつつ、できるかぎり省エネにしていますが、湿度の管理は厳格にしています。

 

■資料の種類や材質に応じた8つの収蔵庫

 

高気密・高断熱の収蔵庫は、「歴史・低湿度・自然・考古・フィルム・美術工芸・民俗・一時」の8種類に分けられています。

歴史収蔵庫では中性紙の封筒と保存箱を使い古文書を中心に保存しています。美術工芸収蔵庫には、木製やスチール製の棚などに仏像や掛け軸などが収められています。民具類は民俗収蔵庫に収蔵されています。湿気を嫌う金属製品は、低湿度収蔵庫にスチール棚やタンスを使って収納されています。

 

収蔵資料が倒れたり落ちたりしないよう地震対策を行いました。(図12

収蔵庫には、紫外線を発生させない照明を採用し、通路の空気が直接庫内に入らぬよう前室も設けています。

 

 図1  歴史収蔵庫  

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     図2 美術工芸品収蔵庫

 

上図のベルトはオーダーメイドで設置しました。

 

 

■トラックヤードと燻蒸庫

 

資料の搬入・搬出を行うトラックヤードは、シャッターを二重にし、建物外からの影響を最小限にしました。(写真) すぐ横には一時収蔵庫と燻蒸庫(写真)があります。搬入資料は、一時収蔵庫に収納ののち燻蒸し、それぞれの収蔵庫に収められます。

県立博物館は、県内各地の文化施設と結びつき、相互に連携する「ハブ博物館」の役割があります。市町村から依頼の資料を燻蒸することも前提にして、燻蒸ガスは酸化エチレン製剤を使っています。燻蒸は最小限にし、害虫トラップを仕掛けたり、毎日の手入れを実施しています。(IPMの導入***

 資料を上下させることによる危険性を少なくするために、博物館は平屋建てになっています。トラックヤードから収蔵庫へは、段差がなく通路がストレートにつながっておりバリアー フリーになっています。博物館の展示や収蔵などの各部門は、分散させないように配置しました。設計段階で、資料の動きを充分に考えたものです。

 

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トラックヤード 

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燻蒸庫

■その他の施設

調査・研究の施設にはX線検査装置(写真)を導入、甲府市善光寺の重要文化財、阿弥陀三尊像や甲斐の金山の調査などにも使われました。(神谷)

 

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X線検査装置

 

 

「人間と違って文化財はモノを言うことが出来ない。そのため、文化財の変化(劣化)に気づいた時点ではもう遅いのである。だからこそ、博物館建設に携わる人間は、空気環境が文化財に及ぼす影響の重大性を改めて認識し、建設以前から博物館内の空気環境を見据えた設計や工法、建材の研究開発により一層力を注ぐ必要があるのではないか」

(沓名貴彦 『パッション』第31号 200711月、金剛株式会社)

 

 

*山梨県立博物館 : http://www.museum.pref.yamanashi.jp/index.html

406-0801 山梨県笛吹市御坂町成田1501-1 TEL 055-261-2631 FAX 055-261-2632

図録 『山梨県立博物館企画展 文化財を まもる・しらべる・つたえる』

(B5変形版、93p、2008年7月12日発行 840円)

 

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**文化財保存のための各汚染物質の濃度基準(東京文化財研究所、数値は推奨濃度)

アンモニア(アルカリ性物質)・・・30ppb以下

ホルムアルデヒド・アセトアルデヒド・・・40ppb以下

酢酸・ギ酸(有機酸)・・・200μg/㎥以下

(沓名貴彦 「博物館建設における環境整備に関する研究」『山梨県立博物館研究紀要』第1集 2007

 

***IPM(Integrated Pest Management 総合的有害生物管理)

愛知県美術館の例(pdf 576KB) : http://www-art.aac.pref.aichi.jp/images/nagaya.pdf

 

 

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