• はじめに
  • 紙の基礎知識
  • 保護紙入門
  • 資料保存Q&A
  • 保存対策事例
  • ブログ
  • リンク
HOMEデジタルもんじょ箱保存対策事例>ちひろ美術館 水彩画の保存と保存的展示

保存対策事例

保存対策事例 第2回(2008.04.01) ▲保存対策事例トップへ
ちひろ美術館 1/3ちひろ美術館について

ちひろ美術館について

1977年「いわさきちひろ絵本美術館」として、ちひろ氏の没後3年目に開館しました。現在では、「ちひろ美術館」の名称で東京練馬区と長野県安曇野の2館で活動しています。年間の来館者は、東京が5万人、安曇野が18〜19万人です。

美術館は「子どもの幸せと平和」「絵本文化の発展」の2つの理念を掲げています。ちひろ氏の画家としての出発点には、第二次世界大戦の体験が大きく作用しました。母そして画家として子どもに関わり続けたちひろ氏の思いを館の理念として受け継いでいます。

開館当時は絵本が美術として正当に評価されていない中で、世界初の絵本美術館として発足。ちひろ氏の作品と世界の絵本原画、絵本の歴史資料をコレクションの大きな柱として、絵本の魅力を広く伝える活動に取り組んでいます。今回は、安曇野ちひろ美術館の副館長・竹迫祐子氏にちひろ美術館の資料保存方法について伺いました。

ちひろ美術館の収蔵作品について

収蔵作品を大きく分類すると次のようになります。

・いわさきちひろ氏作品および関連資料(9400点)
・世界の絵本画家の作品・資料(29カ国175人・16600点)
・絵本、イラストレーションに関する歴史資料(1000点)

保存の観点から、各コレクションの特徴を竹迫氏にたずねました。
  「ちひろの作品」は、1946年から1974年に描かれたスケッチや水彩画で、紙は酸性で脆弱です。印刷物の原画として扱われていましたのでセロハンテープの貼り付けや書き込みがなされています。こうした作品を必要に応じて修復しつつ、劣化の進行を防ぐことに気を使っています。

「世界の絵本画家の作品」は、原則として1945年以降のものを収集しています。画材はさまざまで、イラストボードなど新しい画材の経年変化はどうなるのか、ジャンクアートのような街角で集めた素材で制作された作品の保存をどうするかなど、現代美術館と同様の悩みがあります。

「絵本の歴史資料」は、絵本を美術形態の1つとしてとらえ古今東西の資料を集めています。古いものでは古代エジプトの『死者の書』(4〜5世紀頃)、日本の江戸時代の絵巻物などがあります。保存知識が生かせる分野ですが、資料ごとに最適な保存方法を模索しています。


資料保存活動を始めたきっかけをたずねました。
ちひろ美術館は、1977年に自宅の敷地の一角からスタートした小さな美術館でした。当時は「資料保存」という考え自体がまだあまりなく、運営も保存も手探りが続いていたと聞きます。転機は、1987年に行った120点規模の「いわさきちひろ展機廚任后A換2箇所の美術館を1年にわたり巡回するため、「作品を安全に移動し、展示する」ことが課題となり、本格的に保存活動がスタートしました。


このとき、額装や照明の影響などの保存・展示方法・収蔵環境について、山領絵画修復工房やトップアート鎌倉(額縁・画材店)のアドバイスをうけ、保存対策の原形ができたそうです。


▲いわさきちひろ「立てひざの少年」 1970年






▲エフゲーニー・ラチョフ(ロシア)
『てぶくろ』より 1950年



▲『俵藤太』江戸時代前期

作品を休ませ、人の眼と手で保存する

ちひろ美術館には、常設展がありません。東京は年5回の展示替えを行い1ヶ月休館、安曇野は年4回の展示替えを行い、3ヶ月休館します。
作品を休ませるためです。内規で、1作品の年間の展示期間は最長10週間。1度展示した作品は最低1年休ませると決めています。照明は作品への影響を考慮し、60〜80ルクスに抑えています。

各期展覧会を企画し、展示替えをするには大変な労力が伴います。その分、職員が作品の状態を目にし、触れる機会が増えます。作品保存の取り組みについてたずねました。
両館の職員数は、25名です。全職員が保存に関する知識を共有し、見回りなどで作品や展示室の変化に注意するようにしています。兼任ではありますが、保存には両館で担当者4名があたっています。
保存はマニュアル通りにやっていれば安心、ではありません。担当者には、作品の「疲れ」、紙の変化や絵具の様子など「状態を見る感性」が日々求められています。

すべての資料に常に十分な保存処置を施すことはむずかしいので、何を優先するか「危機管理能力」を求められる、と竹迫氏。古くからの言い伝えで「目通し」「風通し」という言葉があります。保存環境を整えても最終的には人の眼や手による状態チェックが欠かせない、という先人の知恵です。竹迫氏のお話はこの言葉に通じるものがあります。

次ページ以降で美術館の具体的な保存対策についてお伝えします。保存担当の上島史子氏・宍倉恵美子氏に紹介してもらいました。

(2へつづく)

〒104-0028 東京都中央区八重洲2-4-1 ユニゾ八重洲ビル6階
TEL : 03-3273-8516 FAX : 03-3273-8518